絵を見るというより、絵の前で立ち止まる時間を渡されるような展示でした。
昨年11月に、神戸・ギャラリー島田で取材した画家・石井一男さんが2026年3月18日に逝去されたことが公表されました。
秋にまた会えると思っていた人に、もう会えない。その事実が、いま静かに重く残っています。
石井一男さんの絵には「時間」がありました
昨年11月、Best Kobeでは石井一男さんの個展「橙光の女神」を取材しました。
会場に入ったとき、まず感じたのは絵の強さではなく、静けさでした。鮮烈な色を使っているのに、声高ではない。
画面の中にある女性像は、見る人を引き寄せるというより、ただそこに存在していました。
それは説明ではなく、祈りのようなものだったのかもしれません。
ギャラリー島田によると、石井さんの作品は「内的な祈りに満ちた女性の顔」と評されてきました。たしかに、その言葉がよく似合う作品でした。
取材で感じた石井さんの穏やかさ
取材の際にお会いした石井さんは、とても穏やかな方でした。
静かに、柔らかく言葉を返してくださる姿が印象に残っています。
長く描いてきた人にある緊張感よりも、どこか自然体のやわらかさがありました。
作品の印象と、人そのものの空気が重なっていたことを覚えています。
画家の作品と本人が一致して見えることは、意外と多くありません。
でも石井さんには、それがありました。
ギャラリー島田と34年続いた関係
ギャラリー島田によると、石井さんとの縁は1992年に始まりました。
創業者・島田誠さんとの一本の電話から始まり、34年にわたって続いた関係だったといいます。
昨年末には島田さんも亡くなり、そのあとを追うように石井さんも旅立ちました。
神戸の美術文化を支えてきたひとつの軸が、この数か月で静かに失われたことになります。
秋には「偲ぶ展覧会」も予定
ギャラリー島田では、今年11月に石井一男さんを偲ぶ展覧会を準備しているとのことです。
昨年の取材のとき、また秋に会えると思っていました。
その約束は叶いませんでした。
けれど、作品は残ります。
描かれたものは、描いた人の時間を抱えたまま残り続けます。
神戸という街のなかで、石井一男さんの絵がこれからも誰かの時間を止めるのだと思います。
それが、画家が街に残す痕跡なのかもしれません。
石井一男さんの描いた祈りのような時間が、これからも神戸のどこかで静かに息づいていくことを願いながら、心よりご冥福をお祈りいたします。





