全国的に書店が閉店している状況ですが。ここ神戸も御多聞に洩れず老舗書店が閉店していきました。その中のひとつ神戸元町にあった「海文堂書店」を振り返ってみます。
創業大正3年の書店
海文堂書店については、閉店後に出版された『海の本屋のはなし』が詳しく書店の歴史やエピソードをまとめています。この本から引用しながら海文堂書店を紹介していきましょう。
『海の本屋のはなし』は、2003年に海文堂書店に入社した平野義昌氏が同店についてまとめた回顧録。サブタイトルにも『海文堂書店の記憶と記録』とあります。
海文堂書店の創業は古く、大正3年(1914)にさかのぼります。創業者の賀集喜一郎が神戸市多聞通と楠町に海事図書出版販売の「賀集書店」を開業。その後元町3丁目に移転して「海文堂」と改称されるは大正15年(1926)になります。ただ昭和20年(1945)3月の神戸大空襲で当時の店舗は焼けてしまいその時までの資料も焼失。古い時代の記録は関係者からの記憶によるものだそうで、不明な点も多いらしいです。空襲で焼失した書店は翌年の10月には営業を再開しています。
海に関するコーナーと古本屋棚のサブカルが楽しかった
この後の書店の歴史に関しては著書で見てもらうとして、海文堂書店の店内の様子を思い返してみましょう。店内2階には海事関係の書籍やグッズが置かれていました。筆者はここの海関係の本やグッズを眺めているのが好きでした。誰が買うのか船から取り外した部品なども置かれていて小さな船の博物館のワンコーナーのような雰囲気を感じてワクワクしたものです。
そして海文堂書店は新刊書店なのに古本屋のコーナーがあったのがたまらなくよかったです。今でも元町にある古本屋のちんき堂のコーナーは昭和サブカルを思い出させてくれる品がいつも並んでいて必ず立ち寄りいろいろなものを購入しました。さらにトンカ書店(現・花森書林)などの棚も加わり、よりサブカル色の濃い古本屋コーナーがあったことも魅力でした。海文堂書店が古本を売るようになったのは、社員の福岡氏が古本好きだったのが要因だと著書には書かれています。現在も元町には多くの古本屋がありますが、その種火みたなものを作ったのはこの海文堂書店の古本コーナーだったのではないでしょうか。
海文堂書店があった店舗のいま
海文堂書店は、平成25年(2013)9月30日に閉店しました。同書店の閉店が決まってからは各メディアのローカルニュースでは大きく取り上げられ、多くの方に惜しまれて閉店したのを覚えています。現在書店が閉店に追い込まれる波は全国的にも深刻な状況です。それは時代の流れと言ってしまえばそれまでですが海文堂書店の消滅は神戸元町の文化がひとつ消えてしまったと感じるくらい大きな出来事でした。
海文堂書店だった店舗にはドラッグストアが現在営業しています。元町商店街を歩けばドラッグストアが次から次へと現れるのを見ていると、世の中の動きは止められないものなのだなと感じつつ少し悔しい気持ちで海文堂書店があった時代のことを思い返しています。